遺物の保存処理

 遺跡で発見された歴史的な遺物には、地中に埋まっていた過程で腐食して消失しかかっているものと,ほとんど劣化していないものとがある。こうした遺物の劣化の進行を抑制して,長く保管することが出来るように保存処理を行う場合があります。遺物に使用している材質の種類はたくさんあるので、材質に合わせた保存処理を行う必要があるのです。そこでこちらでは、遺物の保存処理についてご紹介いたします。

金属遺物

 遺物は保存処理を行う前に土を取り除きます。これは金属遺物も後述の木製遺物でも同じですが、金属の場合、水を使うと腐食を促進させるため、アルコールを使い除去作業を行うこともあります。

 長い年月埋蔵されていた遺物には、異物が付着していることもあるので、肉眼観察やX-線透過撮影を行って、遺物の状態を確認します。あわせて、保存処理に取り掛かる前の状態写真も撮影します。

 発掘した遺物の材質や製作技法をはじめ、付着物の状態の観察や実測をしたうえで、どのようなクリーニング方法を取り入れるかを決めます。

 鉄製品を例にすると、先ず小道具を使用して付着しているさびを取り除きます。大まかにクリーニングをしても取り除くことが出来ないものはグラインダーなどで削ります。こうして、ある程度、本来の形が明らかになってきた段階で、遺物の接合、実測、写真撮影といった、報告書作成に伴う作業を行ないます。その後、安定性のために脱塩処理・脱アルカリ処理などを行い、硬化処理に取り掛かります。硬化処理を終えると、破損している部分を復元します。こうした遺物は、温度と湿度を一定に保たせた環境で保管するのが望ましいのです。

木製遺物

 木製遺物は、金属遺物と比べて劣化や変形が早いので急速に保存処理に取り掛かる必要があります。木製遺物の保存処理方法には、PEG含浸法をはじめ、糖アルコール含浸法、高級アルコール法や真空凍結乾燥法などがあります。

 PEG含浸法は最も普及している方法で、PEG(ポリエチレングリコール)を温水に溶かし、その中に木製遺物を浸ける手法です。PEG濃度が低い状態で浸け始め、水分が蒸発した分だけPEGを追加し、徐々に濃度を上げて、最終的に濃度が100%になると完了です。

 完了後は資料を取り出し、余分なPEGを洗い流し、乾かします。乾かした後は浸み込んだPEGが固まっているため、形状を保持します。

 他の手法として、糖アルコール含浸法があります。使用するラクチトールが木材に浸透しやすく、安全に取り掛かることが出来て遺物の質感も良くなるという特徴があるため注目を浴びています。糖アルコール含浸法では、はじめに遺物を洗浄し鉄分抜きを行って糖アルコールに浸します。溶液がしっかりと木製品に浸透するように加熱し、溶液の濃度を上げ、浸透していることを確認出来れば温水で溶液を洗い流してからしっかりと乾燥させるのです。乾燥した木製品は仕上げ作業を行い、収蔵庫で保管されます。

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